『わたしが・棄てた・女』を読む

遠藤周作文学館できょう、第5回文学講座~『わたしが・棄てた・女』を読む~があった。講師は、久留米信愛女学院短期大学の三木サニア氏だ。

三木氏は、遠藤と同じ神戸の夙川教会で洗礼を受け、遠藤と近しい人の中で育ち、いつしか彼の研究者となったという。

以下、講座からの印象に残った言葉を列記する。
『わたしが・棄てた・女』は、「わたしが・棄てた・イエス」あるいは「人間が・棄てた・イエス」というダブルイメージなのだが、遠藤は日本の読者がどこまで見抜いてくれるか不安に思っていた。

『深い河』の場合も、大津は棄てられなくてはならない存在。成瀬美津子はイエスを棄てた弟子たちである。

遠藤が愛してやまなかった森田ミツ。彼女は、御殿場の神山復生病院にハンセン病と診断されて入院し、誤診と分かった後もそこで生涯看護婦として働き続けた井深八重さんがモデルである。

一般的な「捨てる」に対し、「うとんずる」「とほざける」「わすれる」という意味が入った「棄てる」を遠藤は使い分けている。

遠藤はイエスの生涯の中で「棄てる」とか「棄てられる」ということが、氏にとって魅力あるテーマであり、「棄てられたから、かえって救われるということがあるかも知れない」と述べている。

彼が描くイエス像は「無力なイエス」「愛の人イエス」「同伴者イエス」の三点に集約される。それにこの作品で「棄てられたイエス」を重ねた。自らを犠牲として、十字架上にその生命を「棄てる」ことにより、人々の救いを全うされた救い主(メシア)であったのである。

森田ミツの場合も、恋人の吉岡から弄ばれ、棄てられ、失意の中で、ハンセン病の診断を受けて世間からも棄てられるという極限状況に陥るが、自分が「棄てられ」て、はじめて棄てられた人たちの悲しみ、苦しみを自分のものとして味わうこととなる。そして、彼らの「苦悩の連帯者」「運命の連帯者」となって生きる道を選ぶのである。
三木氏は、分かりやすくまとめられた様々な資料を使って、この作品で遠藤が意図したことを浮き上がらせてくださった。

個人的に驚いたことがあった。それは森田ミツをモデルにしたという神山復生病院は、カナダに本部をおくクリスト・ロア宣教修道女会が運営していたという記述を見つけたのだ。クリスト・ロア宣教修道女会は、ぼくが木更津で英会話を教わっていた所だ。
シスタージェンマはその後ハイチへ行ったが、ハンセン病のお世話に行かれたのだろうか。20数年経って知ることもある。巡り合わせか。シスターたちの純真な笑顔が思い出され、森田ミツのイメージとダブってきた。

最後に、この作品のラストで、森田ミツを弄び、棄てた吉岡が語る言葉を紹介する。

しかし、この寂しさは、一体どこから来るのだろう。ぼくには今、小さいが手がたい幸福がある。その幸福を、ぼくはミツとの記憶のために、棄てようとは思わない。しかし、この寂しさはどこからくるのだろう。もし、ミツがぼくに何かを教えたとするならば、それは、ぼくらの人生をたった一度でも横切るものは、そこに消すことのできぬ痕跡を残すということなのか。寂しさはその痕跡からくるのだろうか。そして亦、もし、この修道女が信じている、神というものが本当にあるならば、神はそうした痕跡を通して、ぼくらに話しかけるのか。しかしこの寂しさは何処からくるのだろう。

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『わたしが・棄てた・女』って言うから、松坂慶子でも出てくるのかって思ったら・・・・随分難しい話になりましたね。
でも、三木さんって興味深い話をされるんですね。
もうだいぶお歳なんでしょうけど、機会が有れば一度話を聞いてみたいものですね。

松坂慶子は楽屋落ちやね[:ウィンク:]
三木さんってどんな方かなと思って行ったら、何とシスター。
始めはシスターが、棄てられた女の話を??と思って聞いていたら、話の内容が深くて、なるほどと納得がいったよ。

レポありがとうございました。
一番、弱く卑怯な人間に重きを置くのですよね。
沈黙でのフェレイラの叫びは
遠藤の叫びだと思っています。
ユダの存在は、スライドしながらあちらこちらに出てきますが
やはり、最後まで苦しむから
共にいようとするのでしょうね。
行けなくて残念でしたが
お話の中で話されたかった事は
わかりました。
あの、おばさま方もおいでになられてたのでしょうね 笑)

人間は弱い。そんな弱い人間を分かってあげて、どんな人間にも優しく接することができる人に、なりたいもんだね~~
おばさまは、この前ほどじゃなかったよ[:ウィンク:]
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